日本の商社、株式会社悪徳商事はアジア雑貨ブームに乗って東南アジアのバンミャーから竹カゴを輸入して大手百貨店海老丹に卸していた。バンミャー側の輸出窓口はサタン・インクで、原材料の竹が豊富な農村部の工場で輸出向け竹カゴを生産していた。トンソックも、サタン・インクの工場で働く一人だった。

朝から晩までカゴを作って、もらえる賃金はほんのわずか。家には痴呆の父と病気の母、身重の妻と3人の子供がいる。生活は苦しい。デーモン社長から借りた借金は利子が増えるばかりで、いつ返せるかわからない。今では賃金のほとんどが利子の支払に消えてしまう。トンソックが病気でもして工場を休んだら、一家の経済はとたんに破綻してしまう。

一方、デーモン社長は首都インゴンの豪邸に住み、使用人を30人も置いている。でっぷりと太った体を揺らしながら、工場を視察する姿はいかにも暑苦しい。人件費を最低限まで切り詰めて競争力をつけたサタン・インクは、バンミャーの中小優良企業と注目されていた。

そこへライバルが現れた。国際NGOユナイテッド・ジャスティス・インターナショナルの支援を受けたフェアトレードの小さな工房、竪琴だ。竪琴は法律で定められた最低賃金の3倍をその従業員に払った。そのくらい払わなくては従業員の生活保障が出来ないと考えたからである。そして竪琴は人件費以外の経費を切り詰め、非営利団体として竹カゴの生産をはじめた。

初めのうちは竪琴で作られた竹カゴはサタン・インクの物に較べて品質もデザインも劣っていたが、やる気に満ちた従業員たちによって、急速に改善されていった。しかし竪琴ではカゴの値段は人件費がほとんどを占めるので安くするわけにはいかなかった。どんな背景があろうとも使命があろうとも、一般商社は品質と価格しか見ない。海外からのバイヤーはことごとくサタン・インクの竹カゴを選んだ。

しかし世の中捨てたものじゃない。ユナイテッド・ジャスティス・インターナショナルの紹介を受けた日本のフェアトレード団体ふぇあとれが竪琴の竹カゴを輸入することを決定した。かなりまとまった数で長期の契約だ。竪琴はふぇあとれの発注に応えるため、人員を増やした。トンソックは竪琴の従業員になり、事情を話して竪琴から金を借りて、デーモン社長の借金を完済した。トンソックは新しいスタートを切った。

ふぇあとれは非営利団体なのでマージンは低い。一方、悪徳商事はごっそりマージンを乗せて大手百貨店海老丹に卸している。結果、海老丹側からすると、ほとんど同じ価格の同じ品質の竹カゴになる。悪徳商事とは長い付き合いがあるが、ふぇあとれ担当者の熱意とフェアトレード商品の背後にある人々の思いに打たれて、海老丹は竪琴の製品も置いてみることにした。

ふぇあとれ担当者のたっての願いで、竪琴竹カゴの脇に製品の由来を説明するB5一枚の小さなビラを置いた。するとどうだろう?海老丹の売り場でサタン・インクの竹カゴと竪琴の竹カゴを手にとって較べた人のほとんどが説明文にじっくり目を通し、大多数が竪琴の竹カゴを買っていった。そして竪琴への注文は年を追うごとに拡大していった。トンソックの家庭も危機を脱し、5人の子供は幸せに育っている。そして先日、サタン・インクの工場は従業員付きでまるごと竪琴に売却されることが決まったそうだ。

おわり

この物語はフィクションであり、実在する地名・人物とは一切関係がありません

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