フェアトレード現地生産者紹介 アジア ネパール・ウーマン・クラフト
ヒマラヤの10月、日の出前に男たちは森に入る。秋の収穫は既に終り、畑仕事の無いこの時期はロクタと呼ばれる(沈丁花の一種)潅木の皮から紙を作り現金収入を得るのが彼らの仕事だ。ネパールの標高1200〜3000mの丘陵地帯に育つ潅木のロクタは、1000年以上も昔から最も重要な紙の原料として利用されてきた。
ロクタの皮から作られる紙は、その強靭さ、魅力的な質感、耐久性、防虫性等、数々の特性があり、古来より高い評価を受けている。古いヒンズー教や仏教の経典、王室の記録にはロクタの紙が使われていた。現代でも土地の登記簿やチベット僧院で経典などに使用されている。
村の男たちは草刈鎌とナタを手に山に入る。土地をもたない小作人も多く参加する。男たちは二手に別れ、1つのグループはロクタを刈り、もう一つのグループはその皮を剥ぐ作業をする。ロクタを刈る時は根を残して刈るので、数年するとまた良い枝が伸びてくる。これから先もずっとロクタによって現金収入を得る必要があるのがわかっているので、男たちは、伐採しすぎて森を破壊しないように充分気をつけている。
早朝からずっと作業を続け、(もちろんタバコ休憩やティータイムがあるのだけれど)午後遅くになってやっと、ロクタの枝と皮を束ねて、全部担いで森を出る。作業場である山小屋に運び入れると、今度は紙の製作にとりかかる。
大きな銅の煮鍋をセットし、ロクタの枝をくべる。樹皮を木灰か苛性ソーダで数時間煮てやわらかくする。繊維がやわらかくなったらナイフでこすって樹皮の汚れやシミを器用に取り除いてゆく。気の遠くなる根気のいる作業である。色の白い樹皮の内側部分だけが使われる。
更に樹皮を煮込んで、徹底的に繊維をやわらかくする。そして石板の上に乗せて木槌で滅多打ちにし、粉々に粉砕する。こうして細かいバージンパルプを作るのである。出来上がったパルプは何度も何度も洗浄されて、次の日の工程を待つ。
翌日は、網を張った枠を水に浮かべ、その枠内に一定量ずつパルプを薄く広げる。枠を注意深く水から持ち上げ、水を切り、天日で数時間干す。乾燥したら枠から注意深く剥がす。ここでヘマをすると紙が破れて売り物にならなくなってしまう。紙は厚さや滑らかさなどによってグレード分けされ、品質ごとに束ねられてネパール・ウーマン・クラフトに納入される。
ネパール・ウーマン・クラフトの工房で、ロクタ紙は紙から工芸品へ姿を変えてゆく。あるものはプリントされ、あるものは染色され、そしてカード、封筒、便箋などそれぞれの形に裁断され、商品として包装される。こうして出来上がった製品がフェアトレード団体を通じて、欧米や日本の市場に並ぶのである。
ネパール・ウーマン・クラフトは1993年に設立され、主に手すき紙を使った製品を生産している。代表のシャンティ・チャダさんは、「ウーマン・クラフトで働く女性の多くは、経済的に困窮状態の人です。未亡人や夫の暴力から逃れてきた人もいます。そのような女性たちでも、技術を身につけて、自分で収入を得られるようになると、自尊心を回復し、周囲からも尊重されるようになります。」と話しています。
「団体の名称を単数形のウーマンにしたのは、一人一人の女性が、幸せになって欲しいと思ったからです。フェアトレードは、苦境にありながらも生きるために一生懸命働いているこうした女性たちにとって、輝く太陽のようなものなのです。」(チャダさん)
(参考:Verda vol.7&8 ネパリ・バザーロ)
