日本の株式会社強欲商事は、いつも付き合いのある株式会社アレダス・スポーツから、アレダス・ブランドのサッカーボールを格安で作ってくれる海外の工場を捜してくれとの要請を受けました。強欲商事は以前から破格で生産してくれるカキスタンのデビルカンパニーにさらに厳しい条件で発注しました。
カキスタンのデビルカンパニーは、強欲商事の厳しい価格要求に応えられるよう、貧困にあえぐ農村地帯へ行き、借金に苦しむ家庭からほんの少しの現金と引き換えに子供たちを連れて来て工場で働かせました。ララニちゃんもその時、デビルカンパニーに連れて来られた一人です。
工場は換気が悪く、サッカーボールの繊維クズに咽びながら作業をしなくてはなりません。経費削減のため照明も暗く、工場に来てからララニちゃんの視力はずいぶん悪くなりました。昼間には気温45度を超える工場で扇風機さえつけてもらえず、朝早くから夜遅くまで働かされて、夜は大勢の他の子供たちと一緒に狭い部屋に閉じ込められているので十分な休息が取れず、ララニちゃんの体力はどんどん落ちています。食事もろくに与えられず栄養失調の兆候さえ見られます。
工場では工場長の暴力に怯えながら一生懸命作業をします。子供たちがちょっとおしゃべりでもしようものなら、殴る蹴るの暴行は当り前のように行われています。子供たちの中には、工場の大人に強姦された子もいます。男の子の場合も女の子の場合もあります。
基本的人権を無視し、子供たちを極限まで搾取して、デビルカンパニーはなんとか強欲商事の納期に間に合わせました。低価格で品質の良いアレダス・ブランドのサッカーボールは大人気で飛ぶように売れました。アレダス・スポーツは強欲商事に追加発注しました。
ところがカキスタンでNGOジャスティス・インターナショナルがデビルカンパニーの悪行を告発しました。カキスタン当局の捜査が入り、デビルカンパニーは閉鎖さ、ララニちゃんたち子供たちは解放され村へ返されました。そしてジャスティス・インターナショナルの告発は強欲商事とアレダス・スポーツにもおよび、アレダス・スポーツは強欲商事と手を切りました。傷ついたブランドイメージを回復しようとアレダス・スポーツはサッカーボールの追加発注をフェアトレード団体ふぇあとれを通じて行いました。
ふぇあとれはカキスタンのフェアトレード生産者団体フェアボールに生産を頼みました。雇用の拡大による貧困の解消を目標に掲げているフェアボールでは、農村部の貧困家庭から広く従業員を雇い、相場よりもずっと高い賃金を払っています。もちろん工場では従業員の健康を害すことの無いよう労働環境に配慮がなされています。増加した発注に応えるために、フェアボールはララニちゃんのお母さんを雇いました。これでララニちゃんの家庭は少しはゆとりが出来て、ララニちゃんは学校へ通うことが出来るようになりました。
デビルカンパニーではデビル社長が子供たちを搾取した分、高い利益を乗せていました。フェアボールは、従業員に高い賃金を払っていますが、非営利団体ですから、サッカーボールの価格はデビルカンパニーのボールよりも少し高いだけです。そして、ふぇあとれも非営利団体ですから、強欲商事よりもずっと低い利益しか取りません。その結果、フェアボールのサッカーボールはデビルカンパニーのボールよりもほんのわずかに高いだけで、アレダス・スポーツに納品されました。フェアトレードの意義に賛同したアレダス・スポーツは、自主的に利益率を下げたのでフェアボールのサッカーボールはデビルカンパニーのボールより安い価格で店頭に並びました。
消費者にはどちらの作ったものも同じアレダス・ブランドのサッカーボールです。価格が下がって消費者は喜びました。また、ジャスティス・インターナショナルがアレダス・スポーツの行動を高く評価して宣伝したため、アレダス・スポーツのブランドイメージが高まり、サッカーボールは更にたくさん売れ、結果的には増収増益になりました。こうして社会全体が少し良くなって、みんな幸せになりました。めでたし、めでたし。
おわり
この物語はフィクションであり、実在する地名・人物とは一切関係がありません